Specially
第、120話 卵の中の涙 (2001.10.17) 私の心の中には卵が転がっている。 少し気を抜くと、割れてしまうかも知れない。 どこまで育っているのかさえ、わからない・・ 出来れば、抱きしめて暖め続けていたいのだけれど、 この卵の父親も母親もワガママだから、この子はとても迷惑をしている・・ 裕一と出逢ってから、三年目の秋。 只今、何度目かの別れ話の真っ最中。 私は、けしてこんな時に泣いたりなんて出来ない。 そんな大きな揺れを起こして、悲しみの詰まったままの卵を割ってしまいたくない。 だから・・ 割ってしまうのではなく、裕一と私の愛情で孵してあげたいと・・ 裕一が、今、部屋から出て行った・・ 私は、軋む卵をギリギリまで力を込めて抱きしめた・・ 「割れないで・・ 割れないで・・」 目から、大粒の涙がこぼれ落ちた時、 私は、心に刺さった卵の殻の痛みに、我が身を縮めた・・ |