Specially
第、87話 雨が見ている (2001.03.01) 雨の午後。もう、陽も暮れ始めている。 それでも、街の中は賑やかで、 ちりばめられた幾千の人々のドラマが飛び交って行く。 「たけしくん、おもちゃはこないだ買ってあげたばかりでしょ!」 「ねえ、みゆき、竹下先生ってやっぱ変わっているわよね」 「今回かぎり、このワゴンの品、5割引で販売させていただいています」 「だから、タツノオトシゴにはなれないんですよ、お母さまは!」 「こちらにおわすは天下の副将軍、水戸光圀公なるぞ」 「さよならぁ」 えっ・・・さ・よ・な・ら・ 「さよならぁ、和子ぉ、またね」 ・・・なんだ 雨の午後。もう、陽も暮れ始めている。 華子は自分の回りを降り注ぐ雨の一粒一滴に、 自分を見つめる自分を感じてちょっと体を縮めた。 『さよなら』 あの人はたしかにそう言った・・・ 震える華子をいつまでも雨が見ている。 |