Specially
第、237話 ふたりあやとり (2004.01.19) 小学高学年の時のクラス替えで、奴と私は隣の教室に隔離された。 その頃、女子は空前の編み物ブームで、 器用な子ならマフラーぐらいアッサリ編み上げていた。 私は、・・編み棒が刺さったままの編みかけのマフラーがいつも机の中に・・ 低学年から仲良しだった奴は、うちのクラスの女の子にマフラーをもらうと、 すっかり奴は有頂天で、その女の子に夢中になった。 その女の子はクラス替えして行った男の子みんなにプレゼントしていただけなのに・・ 鈍い奴だけはその事に特に気付いてはいなかったのだろう。 不器用な私が奴に作ってあげられたのは、鎖編みにしたオレンジ色のあやとりがひとつ。 ある日、相も変わらず廊下に立たされていた奴は、こっそりうちのクラスを覗きに来た。 マフラーの女の子目当てだったのだろうけれど、彼女はその日、風邪で休みだった。 ざまあみろ!! しゃがみ込んでキョロキョロ捜していた奴の目はやがて、 廊下の窓際の席に座り、睨みを効かせていた私の目と目が合った。 私は、教壇に立つ先生の目を盗み、ポケットからひとつ、あやとりを出した。 『吊り橋』 奴もポケットからひとつ、鎖編みにしたオレンジ色のあやとりを出した。 『網』 『川』『船』『ハクビシン』『白色レグホン』『焼却牛肉』『うまのめ』『カエル』 ガラス窓を挟んでの、ひとりあやとりでの、ふたりあやとり。 結果、私は廊下に立たされ、奴は奴のクラスまで連行されて行った。 そろそろ結婚式間近、 私は片付けていた自分の部屋からその頃の日記を見つけて読み綴っていた。 そして、毛糸と編み棒を段ボール箱から探し出すと・・ 会場には集まった親族軍団と嬉しそうな私のお母さん。 そして、結婚式の定番ソング"カメムシ殺しのサンバ"を合唱する女子高時代の悪友達。 手拍子に夢中の招待客。 ・・そして、、 テーブルの下でこっそりと私は新郎の足をつついた。 『吊り橋』 奴は私の手から鎖編みにしたオレンジ色のあやとりを受け取り、 『網』 『川』『船』『ハクビシン』『白色レグホン』『焼却牛肉』『うまのめ』『カエル』 奴と私の、ふたりあやとり。 「ふたりで廊下に立たされようか??」 奴と私は、キョトンとした目のお客さんをよそにゲラゲラ笑いだしていた。 そんな中、会場には思いっ切り涙目の私のお父さん。 やがて青空の下、あやとりで束ねられたブーケが空を舞った。 |