Specially
第、53話 初恋 (2000.07.06) ぼくが、小学校を卒業する頃だっただろうか・・・ 古めかしい洋館の広い庭に、長い黒髪を後でゆるく束ねた浴衣姿の彼女と目があった。 2、3歳は年上だったのだろうか・・ 洋館の窓からはゆるく、蓄音機のような"アヴェ・マリア"がノイズまじりに流れていた。 ぼくは、慌てて「こんにちは」と言うと、彼女は「こんにちは、七夕ですね」と言って笑顔をみせてくれた。 ぼくは、この洋館のある道を次の日も次の日も用もないのに歩いた。 けれど、彼女に逢えることはなかった。 1年後、七夕の日にぼくは久々にこの道を歩いた。 なにもかも、去年のままだった。 彼女は「こんにちは、七夕ですね」と言って同じ笑顔をみせてくれた。 あれから15年の歳月が経つ・・・ 彼女がいる・・・ 何も変わってはいない。 いや、不思議なジジイ出現!! 金太郎の腹巻に、レオタード姿、足には登山靴・・ そのジジイが彼女に「こんにちは」と言うと、彼女が「こんにちは、七夕ですね」と言って、 ぼくと同じ笑顔をジジイに返した。 ぼくは、なんとなくジジイの後をつけていた。 ジジイはスキップを始めた。 もちろん、ぼくだって負けている訳にはいかない。 ジジイはこれでもかと言わんばかりに膝を高々と上げてスキップをする。 しかも、両手を腰にあててだ。 ならば、ぼくだって負けずに膝を高々と上げてスキップ。 両手を腰にあてながら追いかける。 ジジイの股座にフルーツこうもり出現!!ぼくだって股座にフルーツこうもり!! 突然、ジジイが振りかえった。 ぼくは、慌ててひょっとこ面の自販機の陰に身を隠す。 ジジイの様子を窺うと・・ ジジイがいない・・・ もしや、ジジイ、禁断の"醤油ちゅるちゅるピョンピョンシューズ"で逃げてしまったのだろうか。 ぼくは慌ててジジイのいた付近まで膝を高々と上げて両手を腰にあてスキップをする。 その時、後に気配を感じたぼくはすかさず振り返ると、 男の影がひょっとこ面の自販機の陰に身を隠す。 金太郎の腹巻に、レオタード姿、足には登山靴・・ あれは、ぼくだ・・・ しかも、高校生だった頃のぼく・・・ 古めかしい洋館の広い庭に、長い黒髪を後でゆるく束ねた浴衣姿の彼女と目があった。 ぼくが「こんにちは」と言うと、彼女は「こんにちは、七夕ですね」と言って笑顔をみせてくれる・・・ 1年に1度、無性に彼女のことが恋しくなる。 いつまでも、色褪せることがない・・・ 初恋という名の時間旅行。。。 ぼくが、いつしか年老いても・・・ あのときめきはあの頃のまま。。。 |