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第、909話 沈黙 (2016.12.03)

幼稚園児の頃、私にはお姉さんのような同い年の友達がいた。

気の弱い私はよくからかわれ、その度に彼女は私をいたわってくれた。

幼稚園卒業後、彼女は引っ越してしまいそれっきりになってしまった。

現在私は中学3年生。彼女がこの世界にいた事を何時しか忘れていた。

ー 告別式参列 ー

姉妹校から同じクラスに転校してきた生徒が川で溺れて亡くなった。

他のクラスの生徒にも分かるほど虐められていた。口出しする生徒も教師もいなかった。

川へ転落したらしい。目撃者は不思議といない。遺書はなかった。

告別式の日。亡くなられた生徒の母親に声を掛けられた。

「もしかして○○ちゃん?うちの子と幼稚園の時いっしょだった・・」

知らなかった。気付けなかった。両親が離婚し再婚。名字が変わってたんだね。

私は何もしてあげられなかった。たすけてあげられなかった。

他人に対し気を配れる心なんて怖いほど失ってしまっていた。

彼女は私に気付いていたのだろうか・・・・・・・・・・。

通学路の川沿いの道。帰宅中の他の生徒ぐらい、そこには誰もいなかったのだろうか。

彼女の死は事故として葬り去られようとしている。

私の通う中学は名門私立中だ。誰ひとり、『虐め』という言葉を口にしない。

自らの言行を自らが封殺している。教師陣は無言の圧力を掛け続けている。

彼女は私に気付いていたのだろうか・・・・・・・・・・。

転校生は自己紹介しても私たちは名乗らなかった。

例えば、私に気付いた頃には自分は虐められていた。

私の事を気遣い繋がりを悟られまいとしていたのではないだろうか。

・・・・・・・・・・最早推測でしかない。

ある日の登校時、校門前で、『虐め』を嗅ぎ分けたのか?マスコミと揉めている教師陣。

1台のテレビカメラが私を捉えた。記者が私にマイクを向けた。

無視するように目で急き立てる教師陣。私は涙を流しながら叫んでいた。

「虐めは間違いなくありました。誰もがその事を知っていたはずです」

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その後私は名門私立中を追い出され今は公立中学に通っている。

その公立中学では、迷惑な問題児が来てしまったかのように、

生徒も教師も私に対し絶えず顔を背け続けている。

それでも私は亡くなった彼女の分まで生き続けてみせる。

そう、逃げも隠れもせず、精一杯、堂々と、胸を張って。

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