横浜マタタビバージョンのFUNI WORLD

おバカショート劇場 

FUNI WORLD (2)


第、59話   うそのようなホントの話   (2000.08.16)


「恵理のこと好きなのかと思っていたから・・・

ずーと、思っていられたならば、それがホントにホントなことなんだから・・・

『それだけのことじゃない』って、私はわたしに言い聞かせることができた。。。

ちいさな勘違いだったの、、 大きな自惚れだった、、、

『さよなら』すら、あるはずもない、3日かぎりの私だけのホントの話・・・

絵本を卒業するだけの、、ママの愛も優しさもない変わりに、、、

この胸の痛みだけは、忘れないでいたいと思う。。。」

「あのー、こちら生ラヂオ子供電話相談ホイホイなんですけど・・ 

またあなたですかぁ・・ 切りますよぉお、、」

ガチャ !

「あはは、いろんな方がいますからね、 じゃ、次はきみかな、 もしもし、いくつかな、、」

「ごちゃい♪」

「質問はなにかな? 」

「恵理のこと好きなのかと思っていたから・・・

ずーと、思っていられたならば、それがホントにホントなことなんだから・・・・・・」

ガチャ !

「ツゥーーー・ ツゥーーー ・ ツゥーーー」


第、58話   夏の日   (2000.08.11)


「まったく、美紀とケンカしたあとは決まって立て続けにろくな事がないからなぁ〜」

陽平は、深夜、コンビニへ向かう道を歩いていた。 ・・・はずだったのだが、何か感じが違いすぎる。
こんな、なれた道を間違いはしないのだが・・・
少し歩き続けると石段に突き当たる。 見上げると鳥居らしき物体と、・・・だれか石段に座っている。

「美紀・・ 何してるんだよ、こんな? 所で・・・」

少女は顔を上げた。 陽平を見るなり
「不思議ですね・・ わたくしの好きだった人になんとなく似ているのですけれども、やっばり、違う人なのですね・・
あの人は死んでしまわれましたから・・」

少女は美紀に似てはいるものの、美紀ではないことを陽平は感じ取っていた。

「・・・・・・」

「ジェットコースターに乗る、乗らないでケンカしちまったんだ、美紀って女の子と」 

「じぇっと・・? えっ・・ なんでしょうか・・」

「それも、知らないんだ、丁髷ブルドック風爺さんファミリーが綱でひっばっていく・・ うそ」

「はい、」

「やっぱり美紀じゃないなぁ・・」

「わたくし、あの人のぶんまで生きて明日をもっと知ってみたい・・・
 帰ります。 お父さまが起きてしまわれて、わたくしがいないことに気づかれてしまわれたら大変ですから」

少女は石段を駆け下りると振り向き、陽平に会釈をして走っていった。

空に赤く陽がさしてきている。 陽平の足元に新聞が1枚舞っている。
何気なく拾い上げてみる。 "昭和二十年八月六日"
陽平はいそいで石段を駆け下りると、道の向こうにはコンビニが見える・・ 振り向くと、見なれたいつもの気色・・

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーQQ

「陽平、どこ見てるのよ」

「ん、あの辺に神社が・・・ ビルなんだよな」

「神社ぁ ?そう言えば去年死んじゃったばあちゃんもよくその話してたな・・・」

「え、、 何、、」

「私の名前、ばあちゃんが名付け親なんだ。
その神社で美紀って女の子の話をあるひとから聞いて、そんな元気そうな女の子になってほしかったからって・・
ばあちゃんの子はパパ一人だったからね。 いくぞ! 陽平 ! ジェットコースターだ♪」

「ほんとに俺も乗るのかよ・・
広島の汚点"呉ポートピアランド"のすかすかジェットコースターに乗って以来、やなんだよな・・・ 俺・・・」

「いくぞ !陽平 !」

「丁髷ブルドック風爺さんファミリーが綱でひっばっていく所がやなんだ、、」

「そこがいいんじゃない♪」

「はは、やっぱり美紀だ♪」


第、57話   硝子の絵   (2000.08.03)


「この硝子の裏側から最初に表に出したい色を塗って行く。
・・おい、そこよく聞いていろよ!! 数学の試験に出るぞ♪
背景の色など最後に重ねて塗ればいいんだ。 表から見ればちゃんと絵になっていれば因数分解も解ける〜☆」

ーーーーーー@@ −−−−−−QQ

「それで、昌直のクラスでの美術の時間もこの絵、描いてたんだ」

「取り壊す旧校舎の窓硝子が割られないうちの廃物利用らしいから・・」

「ちょっとぉ、割らずに最後まで描けてるの? 昌直そそっかしいから」

「うるさいなぁ・・ 晴美、、」

「ちょっと、見せてよ♪ あっ・・」

「しまった・・ 落としちまった・・」

「ほんとに、そそっかしいんだから・・
そんなドジな昌直の色も・・ ちゃんと、きちんと、割れた硝子拾っている昌直の色も・・
そんな色が重なり合った、この世に一枚の絵が私は世界中で一番好きだからね、、
だから、ふたりの恋はドジで割っちゃったりしないでね・・」

そう言うと、 晴美は硝子で切ってしまったドジな昌直の右手の人差し指を、
ちょうど通りがかったおしゃぶり爺さんにしゃぶってもらった。。。


第、56話   ハムちゃんの"お料理教室"   (2000.07.27)


「突然、手料理がたべたいだなんて・・・」

優子は、ボーイフレンドの直之の『肉じゃがたべたい』の言葉に操られるかのように
料理の本を睨みつけながら肉じゃがを作りはじめた。

もちろん、味見役はハムスター。 岸朝子よろしく、料理の味には険しい。

「ハムちゃん、おいしい・・? ひまわりの種のほうがよく食べるわね・・ 」

ーーーーーー@@

「もしもし、それで、おねえちゃん、直之さんは全部平らげちゃったんだ・・」

「そうよ、だって肉じゃがたべたいって言ってたんだもの」

「でも、ひまわりの種なんでしょ・・」

「そうよ、ハムちゃんが肉じゃがとして選んでたべたんだもの」

「・・・・・・」

「もしもし、なぁに、みちこ・・・」

「直之さんって、かなりおねえちゃんにやられているんだなって・・ 思って・・・」

そう言いながらみちこは定期入れに秘めていた写真を抜き取り、シュレッダーの中に想いを消し去った。。。


第、55話   景色   (2000.07.20)


教室の窓際の席。 8組のクラスが体育の時間、校庭に集まっている。

わたしは、なにげなく、目をそちらへ向ける。

話は突然だった。

"給食では、ありがとう♪ 雪痔印牛乳さん祭り"の責任者として、3年生のわたしと彼が選ばれた。

8組の彼は、修学旅行で牛の乳絞りがうまかったから・・
3組のわたしは、修学旅行で牛の鳴き声にビートをあわせ、一人、踊りまくっていたから・・と、
選ばれた理由はたしかに納得のいくもの。

そんな訳で、"給食では、ありがとう♪ 雪痔印牛乳さん祭り"を中心にわたしと彼は数日、目まぐるしかった。
はじめて彼と会話をした。 図書室で放課後、二人、遅くまで残った。 

教室の窓際の席。 8組のクラスが体育の時間、校庭に集まっている。 わたしは、なにげなく、目をそちらへ向ける。

以前と変わったことと言えば、 "給食では、ありがとう♪ 雪痔印牛乳さん祭り"の次の日、雪痔印牛乳が食中毒事件を起こし、
学校の給食の牛乳が"明痔牛乳"に変わったことぐらい・・

教室の窓際の席。 8組のクラスが体育の時間、校庭に集まっている。 わたしは、なにげなく、目をそちらへ向ける。


第、54話    花火  (2000.07.14)


「1時間半待たないと来ないか・・」

その子は、さびれたバスの時刻表を見つめ、溜息をもらした。
そして、誰もいないバス停横のバス待ちのためのボロい小屋の中の椅子に腰掛けた。

「ババア、出たドン♪」

「わぁっ、・・・お、おばあさん、いつからそこに・・」

「たった、いまじゃよ、お嬢さん。。 ババアのケツの穴見っか♪」

「い・・いえ、ご遠慮させていただきます」

そんな会話が1時間半ほど続いたであろうか・・・
その子は、やって来たバスに乗り込むと「おばあさんは、乗らないんですか?」と尋ねるが、
ババアは「わしゃ、この村にきれいな思い出があるんじゃ♪」とだけ、ひと言。

やがて、バスはその子の目的地へ到着。 すでに陽が暮れはじめている。
浴衣姿の村の女の子の姿も・・・ 今日は、この村の花火大会、、、

3年前『東京の花火大会とちがって、静かにたくさんの花火が見れる穴場だよ』とさそわれ訪れた村。 

「わたしは、なんでひとりここへ来たんだろう・・
もしかして、あなたとあの子のニ人ずれとばったり鉢合わせになんてなりはしないかと・・
そしたら、わたし、どうしてしまうんだろう・・」

陽がだいぶ落ちてきて、花火が打ち上げられる。
大きな菊の花のような花火・・
そして、仕掛花火の文字で 〜ババアのケツの穴はちょうどこんな柄〜 と、鮮やかに・・・

「ババア、出たドン♪」

「わぁっ、・・・お、おばあさん、いつからそこに・・」

「お嬢さん、花火はきれいじゃけれど、一瞬じゃな・・ 若いもんの色恋沙汰みたいじゃ・・
でもじゃ、花火のように、きれいな思い出として残したいものじゃのう〜 」

「わたしが、失恋したって、どうして・・」

「顔にでっかく書いてあるわ! 『ケツの穴見せて♪』ってな」

そう言うと、ババアはその子にケツの穴を、おっぴろげて見せた。

夜空には、またひとつ、大きな花火が打ち上げられた。。。


第、53話    初恋  (2000.07.06)


ぼくが、小学校を卒業する頃だっただろうか・・・

古めかしい洋館の広い庭に、長い黒髪を後でゆるく束ねた浴衣姿の彼女と目があった。

2、3歳は年上だったのだろうか・・・ 洋館の窓からはゆるく、蓄音機のような"アヴェ・マリア"がノイズまじりに流れていた。

ぼくは、慌てて「こんにちは」と言うと、彼女は「こんにちは、七夕ですね」と言って笑顔をみせてくれた。

ぼくは、この洋館のある道を次の日も次の日も用もないのに歩いた。けれど、彼女に逢えることはなかった。

1年後、七夕の日にぼくは久々にこの道を歩いた。 なにもかも、去年のままだった。

彼女は「こんにちは、七夕ですね」と言って同じ笑顔をみせてくれた。 


あれから15年の歳月が経つ・・・ 彼女がいる・・・ 何も変わってはいない。

いや、不思議なジジイ出現!!

金太郎の腹巻に、レオタード姿、足には登山靴・・

そのジジイが彼女に「こんにちは」と言うと、彼女が「こんにちは、七夕ですね」と言ってぼくと同じ笑顔をジジイに返した。

ぼくは、なんとなくジジイの後をつけていた。 ジジイはスキップを始めた。

 もちろん、ぼくだって負けている訳にはいかない。

ジジイはこれでもかと言わんばかりに膝を高々と上げてスキップをする。 しかも、両手を腰にあててだ。

ならば、ぼくだって負けずに膝を高々と上げてスキップ。 両手を腰にあてながら追いかける。

ジジイの股座にフルーツこうもり出現!!ぼくだって股座にフルーツこうもり!!

突然、ジジイが振りかえった。

ぼくは、慌ててひょっとこ面の自販機の陰に身を隠す。 ジジイの様子を窺うと・・ ジジイがいない・・・

もしや、ジジイ、禁断の"醤油ちゅるちゅるピョンピョンシューズ"で逃げてしまったのだろうか。

ぼくは慌ててジジイのいた付近まで膝を高々と上げて両手を腰にあてスキップをする。

その時、後に気配を感じたぼくはすかさず振り返ると、男の影がひょっとこ面の自販機の陰に身を隠す。

金太郎の腹巻に、レオタード姿、足には登山靴・・ あれは、ぼくだ・・・ しかも、高校生だった頃のぼく・・・


古めかしい洋館の広い庭に、長い黒髪を後でゆるく束ねた浴衣姿の彼女と目があった。

ぼくが「こんにちは」と言うと、彼女は「こんにちは、七夕ですね」と言って笑顔をみせてくれる・・・

1年に1度、無性に彼女のことが恋しくなる。 

いつまでも、色褪せることがない・・・ 初恋という名の時間旅行。。。

ぼくが、いつしか年老いても・・・ あのときめきはあの頃のまま。。。


第、52話    正夢をもとめて・・・    (2000.06.30)


朝、目が覚めた時、いままで見ていた夢がだいぶ前に見た夢のつづきだったなんてこと、
いままでわすれていたのに、そう確信できることってやっぱりあるんだ。。。

隣街のケーキ屋さん・・・
この街はこんなにも近かった街なのに、いままで電車の窓越しでしか見たことはなかった。

ここにケーキ屋があるなんてことすら・・・

もっとも、どの駅を降りたところで一軒ぐらいはあるはずだが・・・

ここで擦れ違いざまに彼女はぼくに声をかけてきた。

「あなたは"電人☆鼻の毛穴の中のダニ殺しこんなにも勝ち名乗り"さんですか? 」

・・・もちろん、夢での話なのだけれども。

ぼくは、何度かそのケーキ屋の前を横切ったりしてみた。

擦れ違う人といえば、"電人☆鼻の毛穴の中のダニ殺しこんなにも正義面"か、その仲間らしき物体ばかり・・・
現実って、やっぱりこんなものだろう・・・

ケーキ屋のおばちゃんが、怪訝そうにぼくを見ている。 そりゃ、そうだ。。。

ぼくは、その店でシュークリームを買って、この街の隣の駅へ降り立った。

家に帰ると、さっそく、シュークリームを食べた♪ 実は大好物なんだ♪

やたらにおいしかった。
いままで食べたシュークリームなんてシュークリームじゃなかったかのように・・・
名店発見ってとこか・・・

たしか、あのケーキ屋にバイト・見習い募集の張り紙があったような・・・ 夢の中でかな・・・

財布の中に、コンビニだったらゴミ箱行きになっているはずのケーキ屋のレシートが・・・

ぼくは、そのシュークリームをいつしか自分の手で作ってみたい衝動にかられて、
レシートにある電話番号にいつのまにか電話を掛けていた。。。


第、51話    情熱    (2000.06.22)


いずみは少し冷めすぎたインスタントのコーンポタージュを一気に飲み干した。

"さよなら"は自分が決めたこと。 何度も幾日も考えたあげく、答えはひとつしか見つからなかった。

いずみが小学生だった頃、校門の前の路地にいたカラーひよこ売りのおやじに「おまえも明日ピンクになってここに現れろ」と言って
そのおやじにおしりを振りながら「アッカンベーぇえ」された時でもけして泣かなかった。

いずみが中学の時、校門の前にいた見覚えのあるカラーひよこ売りのおやじに
「テメーが籠に入ってひよこに売られろ」と言ってそのおやじに「実はおじさんが子供の頃、親にすてられて売られてきたんだ・・・」と
涙をながされた時もけしていっしょに泣かなかった。

いずみが高校を卒業する日、校門の前で見覚えのあるカラーひよこ売りのおやじがしょっぴかれている後姿を目撃した時も、
けして感極まったりして泣かなかった。

あのひとの乗った飛行機が飛び立つ時間・・・

ただ、今のいずみは、今日と言う日が来ることなど知らずにただやさしさにあふれていた
あの頃のあのひとの瞳を涙目で見つめるばかりだった。


第、50話   喫茶"煮沸消毒"  (2000.06.15)


喫茶"煮沸消毒"の店の中は、いつになく込み合っていた。

「それでさ、小林の行った高校の女ってさ・・・」  

「また、女の話題にそれた・・ おまえ、よく男子校に行ったもんだな・・」

観葉植物の仕切りの向こうとこちら側、、、
良美は皿の上のケーキのみじんぎりに挑戦しているかのように職人気質な自分にさえ気づかぬままに・・・

「良美、話聞いてくれてる? もう、、、」

「えっ、・・ごめん、、恵美の通ってる男子校が・・え゛っ、、」

「何、言っているのよ、良美」

喫茶"煮沸消毒"の中はいくつもの会話が雑音のごとく飛び交っている。 

「小林、おまえ中学の頃ずっと好きだった恵美って娘、いまどうした、、」

「バカ、そんなことばっかり記憶してなくてもいいんだよ、テメーはよ」

「・・・・・・」

「それでね、良美、フリーマーケットのことなんだけどさ、、 良美ったら!! 」

「あっ、え・・ 林の中でのフリーマーケットで恵美が中学の頃の体操着をバカ、テメーはよってなに・・・? 」

「良美・・大丈夫・・・」

喫茶"煮沸消毒"の店の、舗道に面した大きな窓の外、小林たちが去って行く姿が見える。

「恵美、私、なんだか大丈夫じゃない・・・」

そう言いながら良美はみじんぎりになったケーキを恵美に勧めてみた。。。


おかげさまで1周年♪=^-^=♪

第、49話     休日    (2000.06.08)


ひさしぶりの土曜の休日、ひと通り、洗濯から部屋の掃除まですませてしまった。

時計を見るとまだお昼前、、、 ゆっくり寝ているつもりがこんな時ばかり、平日のいつもの時間に目がさっぱりと覚めてしまった。。。

電話が鳴っている・・・

「もしもし、あっ、秀夫、、、 午後から・・・ 今日ダメだったんじゃないの?私・・・ ちょっと惠子と約束しているの・・・ ごめんね・・・」

退屈で淋しいのに、なんで嘘なんかついたんだろう・・・・・・

惠子は私なんかよりずっと忙しいよ・・・ 学生の頃が遠い昔みたい・・・

静恵は部屋の窓の外、ぼんやりと見つめていたかと思うと、突然大声で叫んでいた。

「まだ、おそくなんてないじゃない!!この鼻の穴からスイカ転げ落ち野郎・・って誰よ」

赤ん坊のように意味もなく自由に泣いてみたい気持ちだった。。。

明日は探さずともかならずは、やって来るのだろうけど・・・・・・


第、48話   水玉柄のキュロット  (2000.06.02)


3番ホームに立たずんでいると駅の向こう側、小さいけれど、とってもおいしいクレープ屋さんが見える。

オレンジ色の電車が目の前で止まると、条件反射で乗り込んでいる。

よく晴れた日の夕暮れの駅までの乗車券を自動改札口に入れて、決まり事のように家までの道。

あの角を曲がれば私の住む家。 あなたと手を振りあって別れた、いつもの場所。

あと少し歩けばいいのだからまだ泣かないでいて・・・・・・

3番ホームに立たずんでいると駅の向こう側、
いつも二人で乾燥糸引き昆布を注文して追い返されたクレープ屋さん、、、

オレンジ色の電車が目の前で止まると、
あなたに手を引かれ決まってわたしと間違えられて乗り込んでいた水玉柄のキュロット爺さん、、、

よく晴れた日の夕暮れの駅までの乗車券を自動改札口に入れると、
いつもあなたは料金不足をごまかすために"田植えをするキリンさん踊り"を披露していた。

あの角を曲がれば私の住む家。 あなたが、おまわりさんに襟首をつかまれていたいつもの場所。

わたしの部屋の中、ちいさくうずくまるまで、まだ泣かないでいて・・・・・・

せめて、水玉柄のキュロット爺さんの視界からわたしの姿が消えるまで・・・・・・


第、47話    ハムちゃんの"恋愛窓口"   (2000.05.25)


1960年代、アメリカの映画、、、

惠子はビデオのリモコンを手に取り、再生ボタンをハムスターの足で押した。

「まったく、いいところで電話なんかしてくるんだから・・・」

小さな誤解からケンカしていたカップルが気がつくと仲直りしているストーリー。

「あっ、また電話・・・スイッチ切ってやる !! 」

「・・・・・・」

「ビデオに集中出来ないじゃない・・・」

「もしもし、わかったわよ、、、話、聞くから1時間後ぐらいに電話してきて」

再生ボタンをハムスターの後頭部で押す。

映画の女の子が黒電話に向かい、同じようなことを言っている。

電話の向こうの彼氏がそこでまた誤解を重ねていってしまう。。。

「・・・・・・」

「もしもし、今、話聞くわよ、、、何、、、」

一段落して惠子は映画の残りを笑顔で観た。 コメディーのお約束のハッピーエンド。

「なぁんだ、昔の恋愛も今のわたしとあいつもなぁんにも変わらないじゃない。。。」

ENDの文字を見つつ、惠子はつぶやく。。。

「私たちの恋愛はこれからもずっとなんだよ、ハムちゃん♪」

そして、ハムスターの臀部でリモコンの巻き戻しボタンを押した。。。


第、46話     ガールフレンド    (2000.05.18)


「美晴、巨大糸金魚を背負ってきて、失恋でもしたの」

「やだ、もう、、、失恋してなくたって巨大糸金魚を背負うのってファッションじゃない。。。 へんなうわさたてないでよ」

・・・今日は雨が降っています。 

小さかった頃、ママにあたらしい傘を買ってもらった時ほどの期待感もなく雨が降っています。

「ねえ美晴、まつげ、モヒカンにしないの・・」

「それこそ失恋したみたいじゃない、、、もう、店出ようか」

傘をさして街を歩く。

ついこないだまで、隣であいつがこの傘を持ってくれてた・・・

「じゃあね。 美晴」

「うん、、、 ありがとう」

髪を切ったことに触れられなかったのは感のいいガールフレンドの、友達に対しての約束なのだろう・・・

今日、忙しかっただろうに、私に逢ってくれたことも・・・。。。


第、45話    跳ねる   (2000.05.11)


鍵をさがしていたはず・・・

あなたを愛したのはわたしの本能と、、、

記憶の底で泳いでいた何か・・・

「さとし、はじめて出逢ったあの場所、無数のきらめきに何かがうごめいていた。。。」

生まれ変わりって、このまま信じない・・・

二人が過去に出会っていたのかと言うことよりも、、、

跳ねた思い出が証であっても、、、

「さとし、私は明日をさがしたいの。 あなたと、、、」

見つかった鍵は記憶の底に、ポチャン・・って音をたてて沈んでいった。。。

「さとし、あなたがトムソンガゼルだってべつにぜんぜんかまわないの、私、、、」


第、44話   駅前のCDショップにて・・・   (2000.05.05)


お引越しして来てまだ間もないこの町・・・

クラッシックばかり流れているこのお店。。。

レジに知らないおっさんのジャケットが1枚・・・

『只今掛っている曲』 ラフマニノフ (《幻想的小品集》作品3の2)

なんのこっちゃ〜、、、

歌謡曲とかロックとかも置いてあるじゃない。。。

「あのぉ・・ "落ち武者ガールス"の"散切りヘアーでツイストババア"はありますか・・」

そんな、へんな目で見ることないじゃない・・・  声が聞いてみたかっただけなのに・・・

ホロヴィッツ・・・ プレイズ ショパン・・・ 

あっ、ショパンなら知ってる♪ "別れの曲"知ってる♪ 

「これ下さい〜☆」

・・・・・・"別れの曲"か、 縁起悪かったかな、、、

「ありがとうございました」

・・・・・・今度来た時は何買えばいいんだろう。。。

さゆりは、おつりをもらう時にかすかに触れた人差し指の先をもう片方の手で包み込んだ。


第、43話     人魚姫    (2000.04.27)


「横顔の、小さく写った写真・・・

一枚だけ描いてみた似顔絵・・・

引き出しの奥のあなた宛の手紙・・・

魔法がほしかった・・・   勇気もなかった・・・

海の泡にもなれなかった知られざる恋・・・」


武之の家の前で真知子は拡声器を使い何度もなんどもこう叫んでいた。

今日で三日目、、、   サイレンの音と犬の遠吠えとともに・・・


第、42話    約束     (2000.04.20)


「ねぇ、五組の高岡くんってカッパ巻き鼻の穴詰め込み飛ばし選手権で優勝したんでしょ、、、 」

「TVで放送されてたね、多賀子、幼なじみなんでしょ、高岡くんってどんな子なの」

「家が近いってだけよ・・ 高岡くんは割と普通だったんだけどな・・」

「それにしても、優勝者のカッパ巻きトロフィーってどんな悪趣味なんだろうね」

多賀子はふと6歳の頃の小さな出来事を思い出していた。 

高岡くんが、ゴム長鼻の穴の息でふくらまし大会で優勝して小振りなトロフィーをもらってよろこんで、
ついつい鼻の穴にトロフィーを詰めて飛ばしてみようかとしていたその時、
多賀子はそんな高岡くんに『そんなトロフィーよりカッパ巻きのほうがよっぽどいいよ』ってつぶやいたこと・・・

そんなこと、17歳のいままですっかり忘れていた・・・

「まさかね・・・?」

「なに、多賀子・・・」

「まさかって・・・」

「うぅん・・ なんでもない」


第、41話   マタタビの "恋は流星"   (2000.04.13)


「ねえ、瞳、好きなひとに彼女がいるの・・」

「千華、あきらめることは出来ないの・・」

「だって、おなじ世界にわたしもあのひともいるのよ・・」

「じゃぁ、思いっきり自分をアピールしちゃいなさいよ」

「瞳、アピールしちゃっていいかな?」

「やるだけやってみなさいよ。 どんなひと好きになったか知らないけど・・」

翌日、、、

22時の港のそばの公園にて、、、

全身に千の花火を噴射させ『さとしさぁ〜ん♪』と叫びつつ、
くるくる回る千華を出切るかぎり見て見ぬふりをしながら、
さとしと瞳は寄り添うようにその場を立ち去って行った。

千華が見上げた夜空には、流星が一瞬の輝きを時に記録していった。。。


第、40話      教室     (2000.04.06)


「片岡くん、遅すぎ! 何、すりむいてよろこんでんの・・」

「よっ、柏木、まだ帰ってなかったのか・・うちの部活、マネージャーが男だからよ、
気がきかねーんだよ・・ばんそうこうも切らしたままでよ、、柏木、マネージャーやらないか?」

「だって、親から無理やりな習い事が多いもの・・」

「そうだったな、ピアノにバレーに料理に洋裁にモトクロスにダイビンク゛に・・って、おまえはガチャピンか !!」

「今日は、ポンチョレスリングの修行さぼっちゃった。帰ったらママにおこられるよ・・じゃあ、帰る・・ 」

「あぁ、またな」

「あっ、片岡くん、 ・・・誕生日おめでとうね」

「あぁ、、、」

柏木晴子は教室から出てくると、放課後のしんみりした廊下をひとり歩いていった。。。  


第、39話      告白    (2000.03.30)


○月○日  深夜 ・・・

--- リスナー感謝祭、特別企画。 ラジオドラマ『告白』 ---

「おい、効果音のMDどこおいといたんだよ。 生放送なんだぞ・・」

--- 『スカートをはくなんて、何年ぶりかしら』 よしおはそうつぶやくと・・・ ---

「あの野郎、ナレーションまちがえやがった」

--- よ・・ よしおの彼女のえりこがそうつぶやくと・・・---

「滝沢さん、もうしわけない・・ せっかく書いてもらったのを・・」

「いぇ、生放送らしくて・・」

作家の滝沢は、そう言って微笑んだ。

--- よしおがえりこに言った。 「ちがうの、スカートはきたかったの・・」 ---

「あのバカ!! また・・」

--- え・・ええ、えりーこが〜〜よしおに・・ ---

「滝沢さん、ほんとうにとうも・・」

--- 「ぼくは、いつものえりこも今日のえりこもぜんぶ好きだ♪」 ---


○月○日  深夜 ・・・

恵里子は、滝沢義男に言われたままに、この日、この時間にラジオを聴いていた。

『ぼくは、いつものえりこも今日のえりこもぜんぶ好きだ♪』

恵里子の部屋には何ヶ月か前、ひさびさにはいたスカートがひとつ、
義男とケンカした思い出がひとつ、義男との未来(あした)にそなえて飾られていた。。。


第、38話    妖精どどんが−  第一章   (2000.03.10)


春の香りをはこびながら、空気がまだ少し冷たい・・・ とても透明に近い、何かなつかしい感じ・・・

こんな日はいい事に出会えそうな気持ちになれる。

和恵は玄関から出てきて郵便受けをちょっと覗きに来ただけだったはずなのに、
そのままなにげなく散歩に出掛けて行ってしまった。


さとしは、小さな公園の薄汚れたベンチに溜息とともに腰をかけ、
幼い子供をあやす母親の姿をただ、ぼんやりと見ていた。

やりたくもない営業の仕事を突然まかせられて、
最近めっきり疲れがたまるいっぽうのさとしは出向いた先の見知らぬ町の名も知れぬ公園のベンチで
多少の時間をサボることが唯一の生きがいになろうとしていた。


和恵は子供の頃、母からよく聞かされていた話を思い出していた。

『公園にはかならず一つの公園に一人ずつ妖精どどんがーが住みついているの。
妖精どどんが−は、それはそれは醜くてバカでドジでうすのろで、
なにしろ野良犬のうんこが妖精化したのだから絶えずくさくてどうしようもないのだけれども、
心だけはやさしい妖精さんなの。和ちゃん、ママの言おうとしていることわかる?』

・・・和恵は母からこの話をされることが大キライだった。


妖精どどんがーは公園の騒がしさに目がさめ、怪訝そうに辺りを見まわした。

この公園によく遊びに来ている幼い子供が怪我をしている・・・

そのそばで、見かけない営業マンらしき青年が血だらけな姿でよこたわっている・・・

幼い子供といつもいっしょにここに来ているおそらく母親が、目を白黒させて踊っている・・・ 


和恵は悲鳴らしき声を耳にした・・・

しばらくすると手に赤糸みみずがいっぱい入ったビニール袋を持った男とすれちがった・・・

みみずギライの和恵は目を白黒させながら踊り出した・・・


     第二章   (2000.03.17)    

「子供の頃、それは釣りが好きだった・・・毎日のように釣りをしていた川がここにあったんだ。
それが埋められて、住宅が立ち並び、こんな取って付けたようなちっぽけな公園で最近の子供らはだまされて・・・
かわいそすぎるじゃねぇか・・・」

「それと、みみずで人を脅かしたのと、どう言う関係があるんだ」

警官が男を睨む。

「だから、さっきも言ったでしょ。古いダチからみみずを分けてもらった帰り道、
公園を覗いたら子供がジャングルジムから足をすべらせて落ちたんですよ。
助けに近寄ったら子供の母さんが悲鳴あげて・・・
こっちがびっくりしてみみずの入ったビニール袋を一つほおり投げちまったら、そばにいた男にみみずが降り注いちまって、
つい、あわてて逃げちまったんだ。悪さしに公園よったんじゃねーよ」

公園での簡単な現場検証、、、

頭を掻いている男の姿を見つめながら、妖精どどんが―は大きなあくびをひとつして、またうとうとと眠りに入っていった。。。


    最終章   (2000.03.23)

「ここの公園も近々壊されてしまうのね・・・ ママの言おうとしていること、わかる?」

「わかるか!! くそババア」

和恵とさとしの子供の良太が元気よく答える♪

「パパはみみずが大キライだったんだ・・・ わかるか?」

「二十歳を過ぎた子供にまたその話かよ、おい〜++」

「杉山のおじさんは、とっても釣り好きで、ほら、パパとママの仲人をしてくれたおじさん・・・」

「いいから、引越しの途中でトラックを止めさせるなよ!!」

良太の言葉を聞き流しながら、和恵とさとしはその昔、へんな縁で出会った公園が元あった場所をじっと見つめていた。。。

「『引越しのさきゃい』の運ちゃん、いいからもう走らせて、、、」

走り去るトラックを見送りながら、妖精どどんがーは大きなあくびをひとつして、引越しの準備をそそくさと始めた。

・・・のでした。。。        おわり、、、かにゃ〜?


第、37話   できるかぎりの想いは・・・    (2000.03.03)


由美子はぶつぶつと小言を呟きながら歩いていた。


「まったく、もう二度と会いたくないわ・・ あんな奴!!

めずらしくプレゼントなんてくれるから開けてみると
"ブドニャ―ル"の"通称(タクワンババアの肥溜め踊り)"と言う高級な香水じゃない。

わたし、知っているんだからね!! 麻由美から聞いているんだから・・

前の彼女の使ってた香水じゃない!!

『あいつはふられた彼女のことをいまでもわすれられずにいるような奴だから付き合わないほうがいいよ』って
麻由美からさんざん言われてたけど・・

付き合ってたわたしがバカだったわよ・・

でも、ブドニャール・・ 奴に投げつけて割れちゃったな・・・

ちょっともったいなかったかな・・・

よく思い出してみるとなんか悲しそうな顔していたな・・

怒りにまかせてさよなら言ってきちゃったけど・・・ 」


由美子は通りかかった化粧品屋さんに何気なく目がいって、ハっとした。


「あれ、1週間前、奴と一緒にこの店のぞいたな・・・」

ブドニャールのタクワンババアの肥溜め踊り・・・・・・


「あの時わたしが奴に『こんな高いの贅沢品だわ』って、なにげなくねだったような・・・

あれ、そう言えば麻由美から香水のこと聞かされたのは3日前・・・

あれ、わたし欲しかった高い香水が奴の前の彼女の愛用品だってこと聞いて
あの時一時的に切れてなかったかな、たしか・・・

あれ、、、、、、 またやっちゃったかな、、、、、、」


由美子は、今来た道をあわてて走り抜けていった。


第、36話     終わらない物語    (2000.02.25)


「ひさしぶりだね」

「ひさしぶりね」

けして、さよならをした過去などなかった。

5年ぶりの再会・・・

「なにをしていたの?」

「いろいろ、失敗だらけ!」

微笑み合うまでの時間など必要とされなかった。

街のかたすみ、、、 どこからか、5年前のヒット曲が流れてくる・・・・・・

「じゃあね」

「うん、また、、、」

3分間のリバイバル・・・・・・

終わらない物語。。。

これで、きたない公衆便所さえ側になければ、

ふたりはまだ立ち止まっていられたはずなのに・・・・・・

惜しい・・・惜しい・・・


第、35話     とまらない涙    (2000.02.18)


「ちさ、やっぱ今日も部活さぼるの」

「部長には適当に言っておいて」

すっかり、さぼりぐせがついてしまった・・・・・・
と、ちさは悪友のかおりに感謝しつつ自分の不甲斐なさにどうする事も出来なかった。

この3日間、家に帰れば自分の部屋にこもりっぱなし・・・・・・ 

朝までのとまらない涙に2年間の思い出がすべて流れ尽くす日まで・・・・・・


「かおり、ちさは今日も出て来れないか」

「はい、部長、ちさは今日も郷土芸能保存会のために山に登り、
幻の『空飛ぶ畑山おやじの口笛、指笛、のどチンコひっぱりだし笛の技』を取得するために燃えています」

「それはバスケット部にほんとになんかプラスになるのか」

「なるそうです」

「ならいい〜♪」


第、35話   今日という名のレクイエム   (2000.02.11)


時計の針は1時を過ぎようとしていた。


 休日の午後の店の中、リボンのついた小さな小箱をコートとともに隣の席においたまま一時間半、
この店に居座っている女の子がひとり。
いや、正確には真一がこの店にやって来てから一時間半経過というところ・・・・・・

 店の大きな窓の外はあいからわずよく晴れわたり、沢山の人がたえず行き交っている。

真一にとってはこの街とともになつかしい店だ。

学生の頃、ここのカレーを毎日のように注文をしていた。

喫茶店ではなく、カレー屋さんになって欲しいと本気で思ったものだった。

だから最初、女の子の小箱にはテークアウトのカレーがしこたま詰まってて、
少女が家に帰ると幼い弟と妹が5〜6人小箱の中のカレーを奪い合い、
栄養をたくさんとったものからすくすくと育って行き、やがて、大空めがけて・・・ などど思ったりしたのだった。

でなければ、幼い弟と妹が5〜6人小箱の中のカレーを奪い合い、体の毛穴という毛穴から、そのカレーがだらだらと・・・

 いや、それはいいとして、真一は人を待っていた。

学生の頃、本気で愛していた女性だった。


 ・・・・いつのまにか時計の針は2時を過ぎてしまっている。


真一は東京で買ってきた銘菓『ひ○こ』を紙袋をそっとひろげ覗き込み、溜息をついた。

逢う約束をしている女性は学生の頃から『ひ○こ』を一度でいいからすこぶる食べてみたいと口癖のように言っていたので
真一は彼女が『ひ○こ』を家族の幼い弟と妹5〜6人と奪い合うように貪りつく姿を想像して
わくわくしながら買ってきたのに、なんだか淋しくなってきてしまった。

ふと思い出し少女のほうに目をやった。

少女は膝の上に小箱を両手で包み込むようにして置きうつむいている・・・

店の大きな窓の外はあいかわらずよく晴れわたり、沢山の人がたえず行き交っている。


・・・時計の針は3時に近づこうととしている。


休日の午後の店の中、この店に居座っている女の子がひとり。

この店に居座っている休日のサラリーマンがひとり。

そして、この店に居座っている味噌田楽耳の穴に詰め込みおじさんがひとり。

それぞれの今日にうずもれている・・・・・・


第、34話  信号の向こう岸   (2000.02.03)


小走りに走ってきた陽介は足を止め、
目の前を走り出した行き交う車の群れと、赤く点灯する歩行者用の信号をすこし恨めしそうに眺めていた。

 どんどん後ろに人が集まってくる。 駅前のスクランブル交差点。

隣に並んだ女性が何だか初恋のさつきちゃんに似ている・・・

なんて気にし始めている。
もちろん、真横にいる知らない女性の顔をまじまじと覗き込む訳にはいかないし、
さつきちゃんとは、8才の時、別れ別れになったきり・・・

正面を見つめる二十歳を過ぎた陽介にそんなことわかりようもないのだけれど、
大事な会議に遅れそうだというのに、なぜこんなこと気になりはじめたのだろうか・・・

陽介は瞳の端のささいな景色に高鳴る胸を押さえずにはいられなかった。
声をかけてみようかと本気になったとき信号が青になった。
一斉に民族大移動が始まる。 陽介は『なにバカなこと考えてんだ俺・・・』なんて思いながら会社へ急いだ。

その反対の方向へ足を向けたさっきの女性・・・

『なんか幼馴染だった陽介に似てた気がするなァ』なんて考えながら、陽介の後姿をちらりと見ていたが、
すかさずバイト先へ小走りに走って行った。 

「・・・てのが、お父さんとお母さんの再会のお話なんだよ」

そんな陽介に子供たちが声をそろえて言った。

「ば〜〜か♪」


第、33話  風の種  (2000.01.28)


千砂は今日も掲示板を覗き込みながら
『我ながらこんな私のホームページによく常連さんが付き始めてくれたものだ』
と喜ばしい違和感を心地よく感じていた。

千砂が徹と出会ったのは徹のホームページの中の掲示板であった。
家が意外と近所だったことに二人が気づくとそのまま急接近していき、1年半、
徹は仕事の関係でかなり遠い土地に・・・ なんとなく、そのまま・・・・・・

千砂が考えもしていなかった"自分のホームページを立ち上げよう計画"が実行された原因は
偏に徹のホームページのようなのを作りたかったと言う発作の種が、さよならをきっかけに芽生えたからである。
 そして千砂のホームページも満一才〜♪

千砂は、掲示板になつかしいハンドルネームを見つけた。

『はじめまして、肛門イボ太郎と言います。
 のぞいてごらんよ〜このイボ痔〜♪ さわってごらんよ〜このイボ痔〜♪ ですね !!
ぼくも、このようなホームページ作ってたんですよ。 仕事が落ち着いたらまた始めたいな』

千砂は、その書き込みにレスを入れた。

『・・・はじめまして、爆発乳首娘です。。。』


第、32話   茜色のティーカップ  (2000.01.21)


いったい、幾つのもティーカップを割ったことだろうか・・・

紅茶好きの茜がいつものように少し冷め始めたティーカップを両手で包むように持ち上げて、
ぼんやりとした午後を過ごしていた。

だいたいそそっかし過ぎるんだ。 あいつと別れたことだって、今、思えば何でもない誤解だったじゃないか。
・・・ここの所、毎日このことばかり気に病んでいる・・・

だいたいそそっかし過ぎるんだ。 せっかく伸ばした髪を三つ編みに編んだかとおもえばかたっぽ切り落としちゃったり・・・
 その頭に"茜ヘアー"と名づけて学校で流行らかそうと一瞬考えたり・・・
ウシガエルの横でまるまってじっとしたりと、誰もが少しは仕出かすことも、茜は日常茶飯事だ。 

あいつが買ってくれた、茜色のティーカップ。

・・・なんで、こいつだけは割れずにここにいるんだろう。

あいつはもういないのに・・・・・・


第、31話   Afterthe rain   (2000.01.13)


ココアは砂糖を多めに トーストにはマーマレード

窓の外の雨音と いつもと変わらぬ風景

あなたはテーブルの向こう・・・

「突然、『さよなら』って、そんな・・・」
由香はテーブルに頬杖をつき、昨日の記憶の現実であったと認識できた所から
少しずつ自分に伝え直すかのように思い起こしていた。。。

あなたはテーブルの向こう ただそこにいてほしかった

遠いあの頃の私 あれほど強くはないから

由香は、一人暮らしに憧れていた時の自分がこの世に本当にいたなんてことを笑い話にもできなくて、
とにかく、今日のバイトはどうしようかなんてことのほうを真剣に悩み始めていた。。。

手を伸ばすだけで届くことなら 透明なアクリルの壁の向こうまで・・・

由香は、窓の外、大きな声で叫んでいた。

「寝ている私の顔にボールペンで『はみ出しケツ毛ふんどしおやじ』の4コマ漫画を描いて出て行くなーー!!」

Aftertherain 過去の自分には けして出逢わなくてもいいから・・・

Aftertherain 未来(あした)の自分はきっと微笑んでいると信じたいの・・・ ♪


第、30話  範子と京助  (2000.01.06)


「智美、最近やばいよ、私たち・・・
京助だって申し訳なさそうにデートのたびに突然豆腐屋の水槽の中に飛び込んで豆腐泳ぎを披露してパトカー呼ばれたり・・・
突然天ぷら屋の油の中に飛び込んで唐揚げ泳ぎを披露して救急車呼ばれたり・・・
わざと私に嫌われようとして・・・別れたいならそう言ってくれればいいのに・・・
京助、臆病だし・・・ お人好しだし・・・右の乳首に長い乳毛生えているし・・・
もちろん、私は別れたくはないし・・・
デートに誘えば京助はのこのこ誘われるがままについてくるから『このままでずっといたい・・・』なんて、
京助のことも考えずに思っていたりするし・・・でも、だめだよね、そう言うのって・・・・・・」

範子がわたしを頼っている。。。

範子と京助、あんなにうまくいっている二人だと思っていたのに・・・

どうすれば、わたしは範子のためになってあげられるのだろうか・・・

どうすれば、わたしは京助のためにもなってあげられるのだろうか・・・

どうすれば、わたしはわたしのために・・・なってあげられるのだろうか・・・

3人とも、幸せになんてなれないことは、わかっているのに・・・・・・ 


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